劇画・怪盗ルパン
COMENTS  モーリス・ルブランの名作「怪盗ルパン」がダイナミックプロの手によりマンガになった。小学館から描き下ろしで全10巻で発売された。2巻目表紙のルパンの絵は豪ちゃんだろう。各巻のまえがきは豪ちゃんのルパンに対する憧れの思いが書かれてておもしろい。
 キャラクターデザイン:永井豪
 構成:永井豪・安達達矢
 作画:安達達矢・石綿周一・五百路秀一ほか

1. 奇岩城(脚本:クレジットなし)S59.5.10
奇怪な事件の発端は,パリの北西ジェップの郊外でおこった。貴族の邸宅に押しいった強盗が,美少女に銃で撃たれたまま,忽然と消失してしまったのだ。事件は事件をよび,さらに謎は深まる。もつれた謎に挑むのは,天才少年探偵イジドール・ボートルレ。事件の陰には世紀の怪盗アルセーヌ・ルパンが‥‥。事件の糸をたどるうちに,少年探偵は,歴史に秘められた,王家の財宝の謎につきあたった。天才少年の鮮やかな推理と,さらに上をいく神出鬼没の怪盗の対決を壮大なスケールで描く傑作。

2. 怪盗紳士(脚本:クレジットなし)S59.5.10
大西洋航路を走る豪華客船プロヴァンス号の船上で,あの世紀の怪盗アルセーヌ・ルパンが,パリ警察きっての敏腕警部ガニマールによって,ついに捕らえられた!! しかし,獄中につながれたはずのルパンが,堅固に守られた古城にすむ成金男爵の貴重なコレクションをやすやすと盗みだしてしまったのだ。やはりルパンは,この世ならぬ魔物なのか?そうこうするうちにも,裁判の日は近づく。怪盗紳士ルパンが初めて世に出た,歴史的なモーリス・ルブランの出世作。

3. ルパン対ホームズ(脚本:高島茂)S59.6.25
ある日、パリの骨董屋で買いもとめられた古い文机が盗み出された。その中には百万フランの宝くじの当たり券が!? 続いておこる令嬢誘拐、さらにフランス王冠にまちわる青ダイヤをめぐる殺人。次つぎとおこる事件現場に、忽然と現れては煙のように消滅する怪盗ルパン。ついに、英国の名探偵シャーロック・ホームズがよびよせられた!巨匠ルブランでなければ書きえない、名探偵と大怪盗の空前の対決!!

4. 813の謎(脚本:蒲原直樹)S59.8.1
パリのホテルで,ダイヤモンド王ケスルバッハ氏が殺害された。死体の胸元には,怪盗アルセーヌ・ルパンの名刺と,「813」とかかれた紙きれが!? はたして,ルパンは殺人をおかしたのか?さらに,「813」の暗号に秘められた謎とは?全ヨーロッパの運命をかけた重大機密をめぐって,謎の殺人者L・Mとルパンの息づまる死闘が開始された。縦横無尽の大構想が,息もつかせぬ展開でせまる,ルパンシリーズ中,屈指の傑作長編サスペンス。

5. 水晶の栓(脚本:槙村ただし)S59.9.1
フランス政界を根底からゆるがす巨大な汚職事件。その秘密をにぎった大悪漢ドーブレク代議士は、フランスの政治を思うように操りはじめた。怪盗ルパンは自分のため窮地におちいった部下を救うため、この大悪党と水晶の栓に秘められた謎に敢然と立ち向かった。しかし、ドーブレクの悪知恵に再三の危機。この怪物には歯がたたないのか?スリリングな息もつかせぬ展開で,読みだしたらやめられない傑作長編。

6. 金三角(脚本:石川賢)S59.10.1
美貌の看護婦コラリーが何者かにおそわれた。ひそかに彼女を慕うパトリス大佐がその危機を救ったが、なぜかコラリーは事件に口を閉ざしてしまった。じつは彼女の夫の実業家エレサ・ベイがからむ、国際的なスパイ組織の暗闘がはじまっていたのだ。フランス一国の未来を左右するという「金三角」の謎をめぐって、つぎつぎと殺人が行われていく。愛国者ルパンが、祖国フランスを救うべく一世一代の大冒険に挑む!!

7. 三十棺桶島(脚本:安達達矢)S59.11.1
英仏海峡に浮かぶ小さな島、サンク島。数多くの岩礁に囲まれたこの島には、古来から神の石とそれにまつわる怪奇な予言が語り継がれていた。ちょうど予言のその年、その伝説が次々と現実の事件となりはじめたのだ。生と死をつかさどるという神の石は実在するのか!?
ルパン三世「ヘミングウェイペーパーの謎」のオリジナルといってよい作品。

8. 虎の牙(脚本:槙村ただし)S59.12.1
大富豪の不可解な死。はたして自殺か、他殺か!? 残された2億フランの遺産をめぐって、つぎつぎと起こる奇怪な殺人。殺人現場には、獰猛な野獣の歯形が!捜査にのりだしたルパンも、姿なき敵にふりまわされ、巧妙な罠にはまって絶体絶命の危機。犯人の正体は、世にも恐ろしい怪物なのか?不屈の怪盗,アルセーヌ・ルパンの真価を発揮する,胸おどるサスペンス巨編。

9. 八点鐘(脚本:石川賢)S60.1.1
美少女オルタンスを、悪人の手から救うべく、25年前に行われた完全犯罪の謎をあざやかに解いたレニーヌ公爵。彼こそ、天下の怪盗アルセーヌ・ルパンその人だった。名探偵に変身したルパンが、オルタンスを助手に、さらに八つの複雑怪奇な事件に挑む!

10. ルパン再現(脚本:安達達矢)S60.2.1
幾度となく窮地をくぐりぬけてきた不死身のルパンが、忠実なはずの部下の裏切りにあい、アフリカのジャングルでその命をたった!しかし、3年後のパリにルパンが蘇ったのだ!? つぎつぎと復讐のために、平気で殺人を犯すルパン。ルパンは人を殺さぬはずではなかったのか?死んだはずのルパンの幻影を、パリ警視庁の敏腕警部ガニマールと新米刑事ビクトルが追う!

豪ちゃんが語るルパンの魅力

「奇岩城」のつきせぬ魅力(1巻まえがき)
 アルセーヌ・ルパンの数ある冒険の中でも,この「奇岩城」は最も有名で,最も魅力ある作品のひとつとよぶことができるだろう。何処とも知れぬ場所にそびえ立つ,巨万の富を秘めた謎の城‥‥奇岩城。その伝奇性あふれるムードとネーミングは,まさにルパンの城としてふさわしい。アルセーヌ・ルパンがこれほどの長きにわたって親しまれてきた秘密は,ひとえに彼の悪の魅力にあるのだろう。それも殺伐とした悪ではない。さっそうと官憲を手玉にとり,あくまでも人をあやめず,女性にはやさしい。そのいかにもフランス的なしゃれたセンスが,人々の心を魅了してきたのだと思いたい。ルパンこそは永遠のヒーローである。彼に続いて無数ともいえる悪漢ヒーローが登場してきたが,シャーロック・ホームズを超える探偵がついに現れなかったのと同時に,ルパンもまた不滅であろう。彼の数々の冒険は,我々を古き良き時代のヨーロッパへと誘ってくれる。そうアルセーヌ・ルパンこそは,つきせぬ魅力を秘めた,我々にとっての『奇岩城』にほかならないのである。

ルパン・ピカレスクロマンの香り(2巻まえがき)
 ぼくは,ドラキュラが大好きだ。ルパンの解説なのに,いきなりドラキュラとは,どうゆう了見だ,などとはいわずに聞いて欲しい。ルパンとドラキュラ(といってもクリストファー・リーのだが)の魅力は,共通するのだ。それは「悪」の魅力,といってもセコイ「悪」ではなく,堂々たる強さを感じさせる「悪」。『スター・ウォーズ』におけるダース・ベーダーのごとく,「悪」が堂々たる自信をもったとき,「悪」はすさまじいばかりの魅力を発揮する。ドラキュラが,心臓にクイをつき立てられた瞬間に見せる表情のすばらしさ。自分が殺されるはずがない。自分の強さは絶対だ!という表情に,ぼくはシビレルのだ。ルパンもまた「悪」である。しかもドラキュラ以上に堂々たる「悪」である。ルパンは欲しい物は,全力で手に入れる。子供のように純真に。それが社会というワクをはみ出してもだ。そこには矮小な現代人にはできぬ「悪」の魅力とロマンがある。また,ルパンは美しい貴婦人に恋をする。純粋で激しい恋を。美術品を愛するごとく美女を愛し,美女のために涙を流し,血を流し,命の危険もかえりみず,冒険に身を投じる。愛することを知っている「悪」,しれが怪盗紳士ルパンなのだ。

ホームズはショルメスだった‥‥(3巻まえがき)
 ルパンが怪盗の代名詞なら,名探偵の代名詞はいうまでもなく,シャーロック・ホームズでしょう。そのふたりを対決させたら,おもしろいのではないか‥‥とは誰でも思いつくことでしょうが,しかし,誰にでもできるということではありません。それをルパンの生みの親であるモーリス・ルブランがやってのけたのが,この作品なのです。もっとも,最初にこの作品が発表された時,シャーロック・ホームズはエルロック・ショルメスという名にされてしまいました。さすがのルブランも,先輩であるコナン・ドイルに遠慮したのかもしれません。ドイルから抗議をうけたという話もあります。しかし,ルブランが書きたかったのはホームズその人ではなく,あくまでもエルロック・ショルメスだったのかも知れないという気もするのです。最終的にはルパンをたてなければいけない必然性もあるでしょうし,そもそも,ここに出てくる探偵の性格は,明らかに本物のホームズとは異なっています。ホームズの姿を投影させた,パロディーとしての名探偵‥‥それが,ルブランの書きたかった物だったような気がします。

ルパンと暗号(4巻まえがき)
 ルパン・シリーズの面白さの要素のひとつとして,「暗号」をあげることができるでしょう。実際,ルパン物には実に多くの暗号がでてきます。それがさしている物は秘密の財宝ですとか,秘密の隠れ家,あるいは国家の機密にかかわるものなどさまざまですが,それらの暗号がルパンの冒険にミステリーの要素をあたえているということができます。もちろんミステリーといっても,それほどひねってはいない初歩的な物ではありますが,二十世紀初頭のヨーロッパという,これ以上はない時代背景が,それをおぎなってあまりある効果をはたしているのです。「813の謎」は,そんな暗号が出てくる作品の中でも,最もスケールの大きな,ルパン物の代表作のひとつです。なにしろ,フランスとドイツの両国にまたがって話が展開され,ロシアの公爵から,はてはドイツ皇帝まで出てくるのですから,これほど大がかりな話もそうはあるものではありません。むろん,この中でくりひろげられるルパンの活躍も非常に波乱にとんでおり,ルパンの意外な顔も明らかになっていくのです。どうか,存分におたのしみください。

ルパン・シリーズ最高の名セリフ(5巻まえがき)
 アルセーヌ・ルパンの魅力のひとつに,そのしゃれたせりふをあげることができます。それでなくとも口のうまいフランスの男性の中でも,さらに饒舌な人間として設定されているのですから,これは半端ではありません。女性を相手にした時に,その特長は最大限に発揮されますし,戦いにおいても,相手をさんざん口でばかにする戦法は常套手段にもなっています。ところで,それらルパンのせりふの中から最も印象に残るものをひとつあげろといわれたら,私はためらうことなくこの「水晶の栓」の中のせりふをあげるでしょう。「おれの名はアルセーヌ・ルパンだ」というのがそれです。強敵ドーブレクの面前でおまえを倒すと宣言し,その根拠はと聞かれた時に答えるせりふなのですが,これにはしびれました。ま,実際のことをいえば,このせりふは材料が何もないがゆえのはったりにすぎないのですが,はったりもここまでくると感動的とまでいえます。私も一度でいいから,こんなことをいってみたいものです。「この本は百万部売れるだろう。なぜなら,わたしの名は永井豪だ!」

「金三角」が連想させるもの(6巻まえがき)
 ルパン・シリーズのタイトルには,あとあとまで印象に残る物がかなりあります。「奇岩城」「虎の牙」「813」「三十棺桶島」‥‥ひとつには訳のうまさもあるのでしょうが,やはりこれは原作者ルブランのセンスを物語るものでしょう。それら印象的なタイトルの中に,この「金三角」もふくまれます。といっても,私の場合は,実はルブランの原作からではありません。手塚治虫先生のキャラクターで印象づけられてしまっているのです。古い漫画ファンの方ならごぞんじでしょう。丸い黒眼鏡をかけ,どじょうひげをはやした金三角という名のキャラクターが存在するのです。もちろん,手塚先生はルパンのタイトルからこの名をおとりになったのでしょうが,それほど印象的なタイトルともいえますし,事実,一度聞いたら忘れられない名前なのです。そんなわけで,私は金三角と聞くと,どうしてもあの丸い顔が浮かんでくるのですが,物語は無論そんな人物には関係ありません。これはルパン物には欠かせない,宝探しをテーマとした一編です。謎の暗号「金三角」の秘密を,あなたもときあかしてください。

「三十棺桶島」の謎の「物」(7巻まえがき)
 「三十棺桶島」 タイトルだけを聞けば,なにかおどろおどろしい,血なまぐさい感じさえする,日本でいえば横溝正史さんの一連の作品のような印象を受ける人が大部分だと思いますが,実はこの作品,その中心には,とんでもなく現代的なある「物」がすえられているのです。もちろん,事件の発端から導入部,さらにはクライマックスにいたるまで,全体のトーンはタイトルにふさわしい神秘的な色合いに包まれているのですが,その謎の中心を占める「物」の正体を知った時,みなさんはその意外さに驚かれることでしょう。それが何であるかは,マンガを見てのお楽しみということにして,ここでは明らかにしませんが,ただ一つ,この作品が1919年に書かれたものであることを知っておいてほしいのです。そうすれば,その「物」の持つ意味というものが,より明確になることでしょう。しかし,原作者のルブランの新しがり屋ぶりというか,そのサービス精神には驚かされます。まさに,この作家こそが,エンターテイメントのプロなのだと,実感させられてしまいます。

「虎の牙」と怪人二十面相(8巻まえがき)
 「虎の牙」というタイトルを聞いてまっさきに連想するのは,実はルパンではありません。同じ怪盗でも私の場合怪人二十面相です。というのも,江戸川乱歩氏の「少年探偵団」シリーズの中に同じタイトルの作品があり,そちらを先に見てしまっているからなのです。もちろん,氏はルパンからそのタイトルをいただいたのでしょうが,以前にふれた「金三角」のケースといい,ルパンがわが国にあたえた影響の大きさをはかることができる好例といえそうです。そういえば,というよりも今さら言及することもないでしょうが,怪人二十面相というキャラクターは,あまりにもルパン的です。ルパン以後,数々の怪盗が作られ,活躍してきましたが,それらの中でも最もルパンに近いのが怪人二十面相なのではないでしょうか。それは氏のルパンに対する思い入れの強さからくるものなのでしょう。それにしても「虎の牙」というタイトルは魅力的です。あまりにも漫画的すぎて,くさすぎるという意見もあるでしょうが,しかし,煽情的で大衆的で,どうしようもなくスノビッシュな,それこそがルパンの魅力のひとつなのですから‥‥。

「ルパン」短編の魅力(9巻まえがき)
 「ルパン・シリーズ」といえばきらめくような長編群があまりにも有名すぎて,長編専門のシリーズとうけとめられているふしもありますが,実はかなりの数の短編が発表されています。早い話,ルパンが最初に登場した作品は短編でしたし,最初の単行本である「怪盗紳士」もまた,れっきとした短編集なのです(れっきとしたというのはおかしな表現ですが,なにしろこの漫画版では長編にアレンジしてありましたので‥‥)。その後も何冊もの短編集が発表されており,長編のルパンとはまた違った魅力をわたしたちに見せてくれるのですが,中でもしゃれた構成で最も印象深い短編集と呼べるのがこの「八点鐘」でしょう。とにかくタイトルそのものがお遊びになっていて,ルパンはゲームを楽しむように予告どおりに難事件にたちむかっていくという構成は,ま,読んでいただければわかりますが,作者ルブランの余裕というか職人芸を目いっぱい見せてくれるものです。ルパン物の魅力の一つに,フランス的エスプリを満喫させてくれる「しゃれた」感覚があげられるのですが,まさにこれは,その要素でまとめあげた「しゃれた」短編集とよぶことができるでしょう。

劇画版完結にあたって‥‥(10巻まえがき)
 一年近くにわたって描き続けてきたこの劇画版ルパン・シリーズも,いよいよ本巻をもって最終巻ということにあった。「奇岩城」からかぞえて十冊目。短い期間でよくぞ描きおえたという感じである。「怪盗ルパン」はわたしぐらいの年代の人間にとっては決して忘れることのできない,永遠のヒーローのひとりだろう。その劇画化の話をもちこまれて,なつかしさのあまり一も二もなく承諾してしまった結実がこのシリーズなのだが,はたして今の読者にルパンの魅力を百パーセントお伝えすることができたかどうか‥‥。その評価は皆様からの反応によって定める以外にないのだが,しかし,やっていて楽しい仕事であったことだけは断言できる。いわゆる“悪のヒーロー”‥‥その原点のづべてはここにある。それが本シリーズを描き進めるにあたって,私が改めて学ばされた事実だった。さて,この「ルパン再現」では,ルパンは思わぬ動きをする。いったんは死んだと思われたルパンがよみがえり,これまでにはない卑劣で無残な事件をまきおこしていくその謎とは‥‥劇画版アルセーヌ・ルパン最後の活躍を楽しんでいただきたい。


ジャンル別に戻る