「キューティーハニー」まえがきより
 ある日、ぼくの会社ダイナミックプロダクションに東映のプロデューサーが訪ねてきた。
 これまでぼくは「デビルマン」「マジンガーZ」とテレビアニメで一応の成功をおさめていた。その実績を買って、何かまた新しいものを、という依頼に来たのだった。
「七変化ものはできないだろうか?」
 これが先方の提案だった。きっと「多羅尾伴内」が東映のプロデューサーの頭にあったのだろう。多羅尾伴内は七つの顔を持つ男として一世を風靡した東映の名作である。これを現代風にアレンジをしたいのだろうと思った。
 かわいらしい女の子がファッション・ショウのように七変化すれば、見ていてきっと楽しいに違いないと、ぼくは咄嗟に考えた。
 当時、少年漫画誌で女性の主人公が活躍する漫画はまだなかった。ぼくは少年漫画だからと言って、なにも男の子が主人公でなくても構わないのではないかと常々感じていた。いや、むしろ積極的に女の子が主人公の漫画を描いてやろうと考えたのだ。前例のないもの、タブー視されているものに挑戦することに意義があるとさえ思っていた。だから、そういう意識で「ハレンチ学園」の柳生十兵衛や、「あばしり一家」の菊の助に活躍させたりしていた。彼女たちはほとんど半裸で強烈なアクションをしてくれていた。それが新鮮だったのではないだろうか。そして、多分そういう要素が受けて支持されていたのではなかったのだろうか。
 「七変化」と「女の子」と「アクション」が結びつき、それにSF的スパイスをふりかけてみた。これは古典的名作映画「メトロポリス」のマリアに他ならない。そう思った時ヒットが確信でき、女性型アンドロイド「キューティーハニー」が誕生したのだった。
 武器は女性にも容易に扱えるように、サーベル。変身は、そう、真っ裸になってくれれば言うことはない。もちろん、描いててもうれしいではないか。
 こうなると話は早い。
 敵は世界的犯罪結社。しかも女ばっかりで構成されていて、とてつもなく強い奴らだ。女ばっかりだから、レズっ気のある奴もいるだろうし、サド的な奴だっている。すらすらとアイディアが浮かんでくる。
 これがテレビでオン・エアされた時一番よろこんだのは、ぼくかも知れない。変身シーンが楽しみで毎週欠かさずに見ていた。
 ところが、意外なことに「キューティーハニー」のファンは女性の方が多いのだ。特にハニーの変身シーンがいいと言う。
 その後。「けっこう仮面」という全裸の女性が活躍する漫画を描いたりもしたが、これも女性に受けて驚いた事がある。女性心理は複雑で不思議だ。
1992年6月
「中公愛蔵版 キューティーハニー」著者まえがきより

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