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奥様は超能力者? 僕が「電話がほしいなあ」と思っていると、突然本当に電話がかかってきた。「呼んだ?」「う、うん。連絡しようと思ってたけど……?」。こういうことが何度もあった。また、彼女といるとき、ふと他の女の人のことを思い出していたら、「あー、今こういう女の人のこと、考えていたでしょ?」と言われたことがあった。


結婚後の、彼女の仕事
 そういうわけで、僕とうちの奥さんは頻繁に二人で会うようになった。頻繁、といっても、僕は相変わらず仕事で目が回るほど忙しかったから、週に1回会えればいいほうだった。彼女もかなり忙しかったのだけれど、僕が連絡すると、徹夜明けだろうと締め切り直前だろうと、横浜から車を飛ばして会いに来てくれた。「この原稿、今日入れきゃならないの」と、その場で書き物をすることもあった。自分も忙しい中、彼女がそうやって遠距離をいとわず会いに来てくれなかったら、きっと続かなかっただろう。

 そんな感じで、5〜6年付き合っただろうか。お互いに忙しかったから、普通だったら1年分くらいの交際が、5〜6年かかってしまったという感じだった。相変わらず彼女はバリバリ仕事をしていて、結婚の話など全く持ち出さなかった。僕も、この人は家庭に収まる人じゃないよな、と思っていた。でもある日、このままズルズルしていてもしようがないから、「やっぱり、結婚する?」と聞いてみた。「えー? そうなのー?」というのが、彼女の答えだった。それで、僕らは結婚することになった。

 彼女は、結婚しないなら結婚しないで、お互い仕事をしながら付き合っていけばいい、と考えていたようだった。そして、僕以外の人のことは全く考えていなかった。あとで彼女のご両親に聞いたところによると、ご両親はお見合いの話を何度も持っていったけれど、彼女は見もしないで全部捨てていたらしい。うちの娘は結婚する気がないのだと思って落胆していたご両親は、僕との結婚を大いに喜んでくれた。

 そんな彼女だから、結婚後も当然仕事を続けるものだと思っていた。ところが驚いたことに、結婚と同時に、彼女はあらゆる仕事を全部スッパリやめてしまった。結婚後の彼女は、どうやら僕のケアをするのが自分の“仕事”だ、と決めたようだった。僕のスケジュールを全部マネージャーに聞いて、それをカレンダーに書き込んで、それに合わせて自分の予定を組み、僕の仕事が順調に進むことを最優先に、あれこれ気を配ってくれている。まるで、奥さんと同時に専属の秘書を雇ったみたいなのだ。

 さらに、会社ではなかなかできないフォローもやってくれている。例えば、ファンとの交流だ。人物の取材やレポートをやっていたので、初対面の人ともすぐにうち解けることができる。だから、僕がイベントに出たときなどは、ファンの人に気軽に話しかけたりする。そのうちファンの人たちが、僕に聞きたいことを彼女を通じて聞くようになった。僕のファンクラブが出来ると、彼女は頼まれて会報に料理のレシピを載せたり、星座占いをやったり、僕の日常をコッソリ教える通信欄を持つようになった。やがて気がつくと、僕のファンクラブの中に彼女のファンクラブが出来ていた。

 僕の健康管理も、彼女にとって重要な“仕事”らしい。体にいいサプリメントの情報には詳しいし、食事にもすごく気をつかってくれている。最近は彼女の勧めでヨガを始めたのだけれど、僕に勧める1年前から彼女は自分でやってみて、本当に体にいいと確信してから、僕にやらせることにしたようだ。始めたばかりの頃、「こんなこと毎日やるのは大変だよ」と言ったら、「でも一旦始めたら、毎日死ぬまでやらないとかえってよくないんだよ」と言われビックリしたけれど、確かにヨガを始めてからはグッスリ眠れるし、猫背が治った。体が柔らかくなったので、ゴルフでもよくボールが飛ぶようになった。しようがないから、毎日死ぬまでヨガをやろうかと思っている。


これはもう、テレパシー?
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ハワイで奥さんと。じゃなくて、現地の美人と。
 そんな理想的な奥さんだけれど、ちょっと困ったところもある。まず、海外に行くと「外国人」になってしまうところだ。アメリカでレンタカーを借りようとしたときのこと。突然彼女が、後ろにいた2メートルはあろうかという黒人と、突然激しい口喧嘩を始めた。そう、彼女は英語がペラペラなのだ。僕は「こんなのが暴れ出したら、僕じゃ到底かなわないな」と思ってヒヤヒヤしていたのだが、やがてその黒人が謝って騒ぎは終わった。「一体どうしたの?」「その人が割り込もうとしたから、説教してやったの」。自己主張しないと海外ではなめられる、ということなのだが、僕は生きた心地がしなかった。

 それから、いつも決断が早くて行動も早いのは助かるけれど、早すぎることがある。通販雑誌を見ていて、うっかり「これ、ほしいなあ」と言うと、アッという間に届いたりする。仕事がぎゅう詰めのとき、「ああ、疲れたなあ。ハワイにでも行きたいなあ」とうっかり漏らしたら、翌日「航空券、予約したよ」と言われたときには驚いた。「えーっ! このスケジュールで行けるわけないじゃないか!」と怒ったのだが、行ったほうがいいといって聞かないので、なんとかやりくりして出かけた。まあ、行ったら行ったで、すごく元気になって「ああ、行ってよかったなあ」と帰ってきたのだけれど。

 ところで、彼女は異常に勘がいい。交際している頃の話だけれど、僕が「電話がほしいなあ」と思っていると、突然本当に電話がかかってきた。「呼んだ?」「う、うん。連絡しようと思ってたけど……?」。こういうことが何度もあった。また、彼女といるとき、ふと他の女の人のことを思い出していたら、「あー、今こういう女の人のこと、考えていたでしょ?」と言われたことがあった。「えーっ! い、いや、まさか」と言いながら、背中を冷や汗が流れた。こんなふうに、考えていることを見抜かれることも、度々だった。

 ここまでくると、単に「勘が鋭い」で済む問題じゃないような気がする。これはもう、テレパシーの一種なんじゃないだろうか? どうやら、人の考えていることを受信してしまうらしいのだ。このぶんだと、僕は一生彼女に隠し事はできないだろうし、ましてや浮気なんか、とてもじゃないが考えられない。でもまあ、こんなできた奥さんは他にいないだろうから、それでもいいのかな。


<第57回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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